モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。
抗肥満薬への関心が急速に高まる中、モルガン・スタンレーの欧州医薬品リサーチ責任者がこの市場の成長可能性について考察します。
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こんにちは。「市場の風を読む 」Thoughts on the Marketです。モルガン・スタンレーから金融市場動向の考察をお届けします。
今回はモルガン・スタンレーの欧州医薬品リサーチ責任者マーク・パーセルが、世界経済における抗肥満薬の巨大な波及効果について考察していきます。このエピソードは2024年4月25日木曜日、ロンドンで収録されたものです。英語でお聞きになりたい方は概要欄に記載しているURLをクリックしてください。
肥満は、現代社会が直面する深刻な健康課題のひとつです。世界全体で10億人以上が肥満状態で生活しており、2035年までに成人の54%が軽度、もしくは高度肥満になると予想されています。世界中での肥満率の増加と寿命の長期化によって、医療制度に大きな負荷がかかっている状態です。
モルガン・スタンレーのグローバル医薬品チームは過去18カ月間にわたり、肥満に関する調査・分析を行ってきました。2022年に発表した最初のレポートは、主に患者との効果的かつ積極的な交流促進への取り組み、いわゆる患者エンゲージメントに関してのものでした。
我々が参考にした過去事例は1980年代の高血圧市場です。当時、高血圧は慢性疾患というよりも、ストレスによって引き起こされる疾病と考えられていました。同様に肥満の原因も遺伝的なもの、もしくは肥満状態の人の意志の弱さによるものだと見なされていました。
しかし、ソーシャル・メディアの影響に加え、体重コントロールをベースとした糖尿病治療に重きが置かれるようになり、抗肥満薬への需要が高まったことで、2022年7月の段階で弊社は、抗肥満薬の市場規模を550億ドルにのぼると判断しました。当時の論点は、抗肥満薬のような医薬品が保険適用されるのか否か、また保険適用されるとしたらいつからなのかという点でした。
それから1年が経過し、2023年7月に抗肥満薬は米国で保険適用されました。我々が予想していたよりも大幅に早いタイミングとなり、保険適用の恩恵を受けた患者の数は4,000万人近くにのぼり、そのうち80%は自己負担が25ドル未満の患者でした。
2023年末までには、最初の抗肥満薬ランドマーク臨床試験が行われ、体重コントロールが非糖尿病患者のさまざまな健康リスクにおいても有効であることが確認されました。この臨床試験は、既に確認されていた糖尿病患者に対するGLP-1受容体作動薬の効果を裏付けるものになりました。弊社は抗肥満薬を使った体重コントロールが、心臓疾患や肝臓病、さらには睡眠時無呼吸症や変形関節症などの合併症も含め、200種類以上の慢性疾患、いわゆる併存症を改善させるものになると予想しています。また、アルツハイマー病の進行を遅らせる可能性も、十分にあると見込んでいます。
現在の議論の論点は医薬品に対する「需要」から「供給」に移ってきました。ある大手製薬会社は、巨大な需要を満たすためのサプライチェーンモデルを構築するため、約600億ドル近い投資を行なっています。
加えて、供給に関する議論を超えて、抗肥満薬を巡って異業種への波及効果についても頻繁に語られるようになりました。抗肥満薬はヘルスケアセクター全体と消費財セクター、食品セクター、衣料品セクターにどのようなインパクトを与えるのでしょうか?そして肥満率の低下は平均寿命にどのようなインパクトを与えるのでしょうか?
こうした点をすべて考慮に入れた上で、モルガン・スタンレーは世界の抗肥満薬市場が2030年に1,050億ドルに達すると予想しています。また現在、抗肥満薬の供給は米国が中心となっていますが、長期的にみると、米国以外の市場規模がより大きくなっていくと考えています。
さらに、併存症と供給の改善も抗肥満薬の市場規模に影響を与えます。こうした要因がすべて問題なく展開されることを想定した場合の強気のシナリオでは、市場規模が最大1,440億ドルに達すると見込みです。しかし、供給面の制約が続くことになれば、2030年時点の市場規模は550億ドル程度に抑えられる可能性もあります。
急成長を遂げている抗肥満薬市場。我々は引き続き、この市場の最新状況をお届けしてまいります。
最後までお聴きいただきありがとうございました。今回も「市場の風を読む」Thoughts on the Market 、お楽しみいただけたでしょうか?もしよろしければ、この番組について、ご友人や同僚の皆さんにもシェアいただけますと幸いです。