モルガン・スタンレーが配信する金融ポッドキャスト「市場の風を読む」(Thoughts on the Market)では、マーケットに影響を与える様々な事象について当社のソートリーダーによる考察をお届けします。
地球温暖化が進み、エネルギー転換の促進が急がれる中、弊社サステナビリティ株式リサーチ責任者が必要不可欠な素材と米中間の貿易問題による混乱リスクを検討します。
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Thoughts on the Marketをご視聴の皆様、米州サステナビリティ株式リサーチの責任者を務めるLaura Sanchezです。弊社では皆様に様々な視点をご紹介しておりますが、本日は米中間の貿易問題がエネルギー転換に及ぼす影響という、きわめて時事的な問題を取り上げます。
現在のニューヨークは4月11日木曜日、午後12時です。
先週、弊社が米中間の貿易問題とエネルギー転換に関連した地政学的状況について取り上げたのを聞いた方もいらっしゃることと思います。本日は私のチームが先頭に立って議論しているこのテーマを掘り下げて、リスクにさらされている鉱物と素材を取り上げ、米国の複数の産業で具体的に何が問題になるかを詳しく述べたいと思います。
クリーンテクノロジー、つまり電気自動車、エネルギー貯蔵、太陽光といった技術を実現するためには、レアアース、グラファイト、リチウム、その他の鉱物が欠かせません。
現在、これらの重要鉱物の多くは中国が最大の産出国となっており、採鉱段階で捉えるとガリウム、レアアース、天然グラファイト、精製段階ではコバルトとリチウム、下流つまり最終製品段階ではバッテリーやEV、これらはいずれも中国が最大の生産国です。
米中間で貿易上の緊張が高まった場合、中国は禁輸措置を強化したり新たに導入して、西欧諸国のエネルギー転換や経済安全保障、国会安全保障に不可欠なこれらの鉱物の一部を禁輸とする可能性があります。
そこで、10種類以上の鉱物について調査分析した結果、混乱リスクが最も大きいのはレアアースと関連装置、グラファイト、ガリウム、コバルトだと判断しました。すでに一定の禁輸措置が講じられている鉱物もありますが、バリューチェーン全体が分散していないことから、輸出制限が強化される可能性があるとみています。
そして、クリーンテクノロジーの普及という面で、投資家は貿易上の緊張の高まりをどう捉えるべきなのか、弊社リサーチアナリストに尋ねました。
最もリスクが高いのは電気自動車のように見えますが、私共の見解では最も大きな打撃を受けるのはクリーンテクノロジーセクターと大規模な再生可能エネルギー開発企業だと思われます。その背景には、中国がバッテリーのバリュエーションの7割近くを占め、依然として太陽光発電のサプライチェーンに間接的に強く関わっていることが挙げられます。ただし、再生可能エネルギー開発企業については微妙ながら重要な違いを考慮する必要があります。それは例えば、高いコストを顧客に転嫁できるかどうか、高いコストがプロジェクトの経済性を損ない、ひいては需要を損なう可能性の有無、大手と中小企業で影響が異なることなどです。大手のティア1企業は過去にもサプライチェーンの制約を乗り切った実績があり、実際には市場シェアを伸ばせる可能性もあります。
自動車に関しては、EVの普及が遅れれば、EV関連銘柄は当然打撃を受けるでしょう。ただ、弊社セクターアナリストが指摘しているように、これは目先の損失が縮小することも意味します。また、最大手のEVメーカーは市場シェアを維持できるとも言えます。貿易問題が強まれば鉱業の国内回帰が進み、米国製の装置に対する需要が増すため、米国の金属・鉱業株にはプラスとなる可能性が高いでしょう。
中国に対するタカ派的アプローチは党派を超えて強く支持されており、弊社の政策専門家の見解では、米国大統領選挙をきっかけに貿易制限が緩和される可能性は低いとみられます。それでも、エネルギー転換というテーマに関して言えば、共和党が政権を握った場合には貿易や企業マインドが不安定化する可能性があり、民主党政権ならば保護貿易主義と世界的な気候変動目標の達成のバランスがデリケートな問題となると思われます。
本日はご清聴ありがとうございました。ポッドキャストをお楽しみいただけましたら、お聞きになった内容のご感想をご記入いただき、ご友人やご同僚にもThoughts on the Marketをシェアしていただけると幸いです。